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東京地方裁判所 平成元年(行ウ)181号 判決 1991年3月27日

原告(選定当事者)

朝木明代

原告(選定当事者)

矢野穂積

被告

市川一男

右訴訟代理人弁護士

奥川貴弥

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、東京都東村山市に対し、九四二万三七〇六円及びこれに対する平成元年九月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  (当事者)

原告らおよび選定者蝦名裕は、東京都東村山市(以下「東村山市」という。)の住民であり、被告は、東村山市長である。

2  (固定資産税を賦課しなかった事実)

東村山市は、同市内に所在する別紙借用地一覧表の借用地欄記載の各土地(以下「本件各土地」という。)を同表の施設名欄記載の体育施設用地としてその所有者らから借り受けていたが、被告は、本件各土地が地方税法三四八条二項一号の非課税用途に供されている固定資産に該当するとして、本件各土地に対する昭和六三年度の固定資産税(以下「本件固定資産税」という。)をその所有者らに賦課しなかった。

3  (違法性)

しかしながら、本件各土地が地方税法三四八条二項一号の非課税用途に供されている固定資産に該当するとしても、同項ただし書は、「固定資産を有料で借り受けた者がこれを次に掲げる固定資産として使用する場合においては、当該固定資産の所有者に課することができる。」と定め、右規定を受けて東村山市税条例(以下、単に「条例」という。)四〇条の六は、「固定資産を有料で借り受けた者がこれを法第三四八条二項各号に掲げる固定資産として使用する場合においては、当該固定資産の所有者に対し固定資産税を課する。」(右規定中「法」とは地方税法を指す。)としているのであるから、東村山市が本件各土地を有料で借り受けている場合には、その所有者らに対し固定資産税を賦課しなければならないところ、東村山市は、本件各土地を借り受けるについてその所有者らに対して報償費の名目のもとに3.3平方メートル当たり月額五〇円の使用料を支払っていたのであるから、本件各土地を有料で借り受けていたものというべきであり、したがって、被告が本件固定資産税を未だ賦課していないことは、条例四〇条の六に違反し違法である。

4  (損害の発生)

本件固定資産税の額は、別紙借用地一覧表の固定資産税額欄記載のとおりであり、その合計額は九四二万三七〇六円であるから、東村山市は、被告が違法に本件固定資産税を賦課しないことにより、右の金額と同額の損害を被った。

5  (監査請求)

原告らは、平成元年六月一二日付けで東村山市監査委員に対し、被告が違法に固定資産税を賦課しなかった事実による東村山市の損害の補填及び違法行為の防止の措置を求めて監査請求をしたところ、同監査委員は、同年八月一〇日付けで、原告らの請求は理由があると認め、東村山市長に対し、原告らが請求した措置のうち、違法行為の防止について勧告をしたが、東村山市の損害の補填については、何らの勧告もしなかった。

6  よって、原告らは、右の監査結果に不服であるから、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、東村山市に代位して、被告に対し、右損害金九四二万三七〇六円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成元年九月一六日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を東村山市に対して支払うよう求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1(当事者)及び同2(固定資産税の賦課をしなかった事実)は認める。

2  同3(違法性)のうち、東村山市が本件各土地を借り受けるについてその所有者らに対して報償費の名目のもとに3.3平方メートル当たり月額五〇円を支払っていたことは認め、その余は争う。

3  同4(損害の発生)は争う。

4  同5(監査請求)は認める。

5  同6は争う。

三  被告の主張

1  条例四〇条の六にいう「有料で借り受けた」とは、固定資産を有償で借り受けたこと、すなわち賃貸借契約のような有償契約に基づいて固定資産を借り受けたことを意味する。

しかしながら、本件各土地の周辺土地の賃料額は、一平方メートル当たり月額一五一円ないし五一八円であるのに対して、東村山市が本件各土地の所有者らに支払った報償費は一平方メートル当たり月額約一五円(3.3平方メートル当たり月額五〇円)にすぎないのであるから、本件各土地の貸借契約に有償性はなく、東村山市は使用貸借契約に基づいて本件各土地を借り受けていたにすぎないというべきである。

したがって、本件各土地については同条の適用はなく、被告が地方税法三四八条二項本文に基づいて本件固定資産税を賦課しなかったのは適法である。

2  被告には、固定資産を有料で借り受けた者がこれを地方税法三四八条二項各号に掲げる固定資産として使用する場合において、当該固定資産の所有者に対して固定資産税を賦課するか否かについて裁量があり、仮に、東村山市が本件各土地を有料で借り受けていたとしても、被告が本件固定資産税を賦課しなかったことは右裁量の範囲内であるから適法である。

すなわち、同項ただし書は、固定資産を有料で借り受けた者がこれを同項各号に掲げる固定資産として使用する場合においては、固定資産税を「当該固定資産の所有者に課することができる。」旨規定しており、このような場合に固定資産税を課するか否かについて市町村に裁量を認めているところ、条例四〇条の六は、文言上は地方税法三四八条二項ただし書によって与えられた右の裁量の範囲を制限したようにもみられるが、条例が地方税法を受けて制定されていることからすれば、条例四〇条の六にいう「固定資産税を課する」とは、地方税法三四八条二項ただし書の「固定資産税を課することができる」と同趣旨に解すべきであり、したがって、東村山市が本件各土地を有料で借り受けていたとしても、被告はこれに対して固定資産税を賦課するか否かの裁量を有するというべきである。

そして、地方税法三四八条二項が一定の用途に供した固定資産について固定資産税を非課税とした趣旨は、無料で固定資産の提供を受けた者が当該固定資産を非課税用途に供している場合には、提供した固定資産の所有者自身が、いわば犠牲的精神でもって当該固定資産を非課税用途に供しているということができるので、当該固定資産に係る固定資産税を非課税とする十分な理由があるという点にあると解すべきところ、本件各土地の所有者らのようにわずかな報償費を受けることによって土地を非課税用途に提供している者も犠牲的精神に基づいているという点では同様であるから、本件固定資産税を非課税とする十分な理由があるというべきである。したがって、被告が本件固定資産税を賦課しなかったことがその裁量の範囲内にあることは明らかである。

なお、仮に、条例四〇条の六の「固定資産税を課する」との規定が地方税法三四八条二項ただし書の「固定資産税を課することができる」との規定より裁量の範囲を制限したものであるとしても、本件各土地については右のとおり非課税とする十分な理由があるので、被告が本件固定資産税を賦課しなかったことは、やはり被告の裁量の範囲内にあるというべきである。

3  被告が本件固定資産税を賦課しなかったことは、地方税法六条により適法である。すなわち、東村山市は、市民のスポーツ振興、健康の増進のため、昭和四九年一〇月一〇日にスポーツ都市宣言をし、さらに昭和四九年度に市内一三町体力つくり推進委員会の組織づくりを行って、市民総ぐるみのスポーツ行事参加を促進しているが、その結果、スポーツ人口が増加し、現状では、市内のゲートボール場、少年野球場及びテニスコートが不足している。そこで、東村山市としては、これらの体育施設を確保する必要があるが、地価の高騰により財政上これらの施設用地を取得することが困難となっているために本件各土地をその所有者らから借り受けて右用途に当てているのである。このように、東村山市が本件各土地について報償費を支払いながら固定資産税を賦課しなかったのは、市民のスポーツ振興、健康の増進という公益上の目的を達成するためであるから、地方税法六条にいう「公益上その他の事情により課税を不適当とする場合」に該当するというべきである。

なお、地方税法六条による非課税の範囲は条例をもって規定することが望ましいとしても、そのような条例がない場合に直接同条に基づいて非課税とすることが不適法ということはできない。

4  右3のとおり、東村山市は、本件各土地に係る体育施設を確保する必要があったところ、仮に、本件各土地の借受けについて、所有者らに報償費を支払いながら固定資産税を賦課しなかったことが違法であるとすれば、東村山市としては、本件各土地の所有者らが固定資産税が非課税となるとしても無料で本件各土地を貸すことは期待できなかったから、本件各土地を確保するためには、結局、固定資産税を賦課しながら、有料で借り受ける方法をとる以外にはなかったことになるが、この方法による場合には、本件各土地の所有者らと賃貸借契約を締結して通常の水準の賃料を支払わざるを得なかったものである。

そうすると、被告が本件固定資産税を賦課しなかったことにより東村山市に損害が発生したというためには、東村山市が本件各土地を通常の賃貸借契約によって借り受けたとした場合に昭和六三年度中に支出しなければならなかったはずの賃料額が、現実に同市が本件土地について同年度中に支出した報償費と非課税とされた本件固定資産税相当額との合計額よりも低額でなければならないはずである。

しかるに、本件各土地の周辺土地の賃料額は、最も低額な廻田町第一ゲートボール場用地の周辺土地においてさえ3.3平方メートル当たり月額約四九八円(一平方メートル当たり月額一五一円)であるから、東村山市が本件各土地を賃貸借契約によって借り受けたとすれば、少なくとも3.3平方メートル当たり月額四九八円以上の賃料を支払わなければならなかったのに対し、本件固定資産税相当額は、これを3.3平方メートル当たりの月額に換算すると、別紙借用地一覧表の3.3平方メートル当たり月額欄記載のとおりであり、最も高額な本町第一ゲートボール場用地においても二二七円にすぎず、これに報償費を加算しても3.3平方メートル当たり月額二七七円にしかならないのである。

したがって、被告が本件固定資産税を賦課しなかったことにより東村山市には何ら損害が発生していない。

四  被告の主張に対する原告らの認否及び反論

1  被告の主張1ないし4は争う。

2  (被告の主張1について)

固定資産を借り受けた者がこれを地方税法三四八条二項各号の固定資産として使用する場合に、同項本文により固定資産税が非課税とされるのか、あるいは同項ただし書、条例四〇条の六により固定資産税が課されるのかは、当該固定資産の借受けの基礎となる契約が賃貸借契約であるか使用貸借契約であるかといった契約の法的性格によって決定されるのではなく、当該固定資産を借り受けた者が、その所有者らに対し、金額の多少にかかわらず使用料たる金員を支払ったか否かによって決定されるというべきである。そして、本件各土地については、報償費の名目のもとに3.3平方メートル当たり月額五〇円の使用料が支払われていたのであるから、「有料で借り受けた」場合に当たることは明らかである。

また、本件各土地は農地であるところ、本件各土地について支払われた3.3平方メートル当たり月額五〇円の使用料は、宅地の賃貸借契約における賃料としては低廉であるとしても、農地の賃貸借契約における賃料としては適正額である。

3  (被告の主張2について)

本件各土地の所有者らが本件各土地を体育施設用地として東村山市に貸したのは、犠牲的精神に基づくといったような理由によるものではなく、農地である本件各土地を貸すことによって、貸借期間中は、3.3平方メートル当たり月額五〇円の報償費が支払われ、固定資産税が賦課されないことになることに加えて、東村山市が本件各土地の管理責任を負担し、また、借受けに際して農地転用許可手続が必要とされないために貸借契約の終了による返還後も、長期営農継続農地としての認定を受けうるといった十分な利益があったからである。

4  (被告の主張4について)

仮に、昭和六三年度中に東村山市が本件各土地に固定資産税を賦課した上、これを賃借していたとしても、これまでの報償費支出の経緯からすれば、3.3平方メートル当たり月額五〇円の報償費相当額に本件固定資産税相当額を加えた金額以上の賃料を、本件各土地の所有者らに対して支払わなければならなかったとする理由はない。

第三  証拠関係<省略>

理由

一請求原因1(当事者)、同2(固定資産税を賦課しなかった事実)及び同5(監査請求)は当事者間に争いがない。

二固定資産税を賦課しなかった事実の違法性について

1(一)  東村山市が本件各土地を借り受けるについてその所有者らに対して報償費の名目のもとに3.3平方メートル当たり月額五〇円を支払ったことは当事者間に争いがないところ、原告らは、右の金員の支払いがあったから、東村山市は、本件各土地を有料で借り受けたものであり、被告が本件固定資産税を賦課していないことは、条例四〇条の六に違反し違法であると主張するのに対し、被告は、同条にいう「有料」とは「有償」と同義であり、東村山市は、本件各土地を使用貸借契約に基づいて借り受けていたのであって、有償で借り受けていたものではないから、本件土地の借受けについては同条の適用はなく、被告が本件固定資産税を賦課しなかったのは地方税法三四八条二項本文により適法であると主張する。

(二)  そこでまず、地方税法三四八条二項ただし書及び条例四〇条の六の「有料」の意義につき考えるに、この「有料」とは、固定資産の貸借契約において、借主が貸主に対しその貸借に牽連性を有する一定の金員を支払う旨の合意をし、その合意に基づいて契約上の債務としてその金員が支払われれば足り、その金員の額がその貸借に見合うものとはいい得ないときであっても、有料と解することに妨げはないというべきである。

この点に関し、被告は、この「有料」とは、民法上の有償契約の「有償」と同義に解すべき旨の主張をしている。ところで、民法は、或る物の貸借契約について、借主が貸主に対しその貸借に牽連する金員を支払っていたとしても、それだけで、当該契約を当然に有償の貸借契約であるとするわけではなく、その金員の額のほか、貸借に至る事情をも考慮して、当該金員が或る物の貸借に見合うものといえる場合すなわち対価といい得る場合に初めて、当該契約を有償の貸借契約すなわち賃貸借契約としているのであるが、これは、賃貸借契約と使用貸借契約との間における規律の相当の相違、ことに賃貸借契約においては使用貸借契約に比べて借主が受ける保護が極めて手厚いことによるものである。そして、固定資産税の賦課について民法上の規律の違いを当然に考慮すべきであるとはいえないこと、また、前記の地方税法や条例の規定ではわざわざ「有料」と規定し、「有償」という用語を用いていないことに鑑みると、被告の右主張は採用し難い。

そして、地方税法は、固定資産税を、固定資産を所有する事実に担税力を認めてその所有者に課するのを原則とし、収益の多寡にかかわらず、固定資産の価格を課税標準とする租税と構成していることからすれば、有料の意義を、先に述べたように解したからといって合理性を欠くものではない。

(三)  本件では、右(一)のとおり、東村山市は、本件各土地を借り受けるについてその所有者らに対し報償費の名目のもとに3.3平方メートル当たり月額五〇円を支払っていたことは当事者間に争いがなく、この事実と弁論の全趣旨によれば、この報償費の支払は、本件各土地の貸借に牽連性を有するものであって、契約上の債務の履行としてされたものということができる。

そうすると、右報償費の額が本件各土地の固定資産税額を相当に下回っており、また、通常の賃料を大幅に下回っているとしても、東村山市が本件各土地を有料で借り受けていたものというに妨げはなく、したがって、右(一)の被告の主張は、その前提を欠き失当である。

2  被告は、地方税法三四八条二項各号に掲げる固定資産が有料で借り受けられている場合にも、当該固定資産の所有者に対し、固定資産税を賦課するか否かについては、被告に裁量があり、仮に、東村山市が本件各土地を有料で借り受けていたとしても、本件固定資産税を賦課しなかったのは右裁量の範囲内であるから適法であると主張する。

同項ただし書が、固定資産を有料で借り受けた者がこれを同項各号の固定資産として使用する場合について「固定資産税を課することができる。」と規定している趣旨は、市町村に対し、固定資産税を賦課するか、賦課しないか、賦課するとした場合にどの範囲で賦課するかの裁量を認めたものと解されるが、それはあくまでも、市町村が条例によって決めるべきものであって、条例をまたずに賦課権者に裁量を認めたものと解すべきではない。そして、東村山市では、条例四〇条の六を設け、「固定資産を有料で借り受けた者がこれを地方税法第三四八条第二項に掲げる固定資産として使用する場合においては、当該固定資産の所有者に対し固定資産税を課する。」と規定しているのであるから、条例によって、具体的事情を問わず一律に固定資産税を課することとしているのである。

そうすると、固定資産税を賦課するか否かについて被告に裁量がないことは明らかであり、被告の主張は失当である。

3  また、被告は、本件固定資産税を賦課しなかったことは、地方税法六条により適法であると主張する。

地方税法六条一項は、個々の地方団体に対し、公益上その他の事由があるときはその独自の判断により、一定の範囲で課税しないことを認めているが、他方において、同法三条一項は、地方団体が、その地方税の税目、課税客体、課税標準、税率その他賦課徴収について定めをするには、当該地方団体の条例によらなければならないと規定しているから、地方団体が地方税法六条一項に基づいて固定資産税を非課税とするには、条例をもってその旨を定めなければならないというべきである。しかるに、東村山市が本件固定資産税を課税しないことを是認する旨の条例の規定を設けていないことは被告の自認するところであるから、被告の右主張はそれ自体失当である。

4 以上によれば、東村山市は、本件各土地を有料で借り受けていたものであり、条例四〇条の六に基づき本件各土地についてはその所有者に固定資産税が賦課されるべきところ、被告が本件固定資産税につき、その法定納期限(右三参照)を経過しているにもかかわらず、なおこれを賦課していないことを適法であるとする根拠は見出し難いから、被告が本件固定資産税を賦課していないことは、違法であるといわなくてはならない。

三損害の発生について

原告らは、被告が本件固定資産税を賦課しなかったことにより、東村山市は本件固定資産税の額九四二万三七〇六円と同額の損害を被ったと主張する。

被告が本件固定資産税を賦課していないことが違法であることは、右二のとおりであるが、そうであるからといって直ちに東村山市に本件固定資産税の額と同額の損害が発生したということはできない。すなわち、仮に、被告が今後において本件固定資産税を賦課徴収したとすれば、結局、東村山市に本件固定資産税の額に相当する損害は発生しないのであり、現時点では、被告が本件固定資産税を賦課徴収するにつき法令上格別の支障があるわけではないから、被告が本件固定資産税を賦課しないままの状態が今後も継続し、本件固定資産税の賦課決定をすることのできる期間が経過してしまわない限り、東村山市には本件固定資産税の額と同額の損害が発生したものということはできないのである。

しかるところ、固定資産税の賦課決定は、法定納期限の翌日から起算して五年を経過した日の前日まですることができるところ(地方税法一七条の五第三項)、固定資産税の法定納期限は、当該年度の第一期分の納期限(四月中において当該市町村の条例で定める納期の納期限)であり(同法一一条の四第一項、三六二条一項)、東村山市においては条例四八条一項により四月三〇日が第一期分の納期限と定められている。したがって、本件固定資産税の賦課決定をすることができる期間は、平成五年四月三〇日までであるが、未だこの期間を経過していないことは明らかである。

もっとも、原本の存在及び<証拠>によれば、昭和六三年度当時、東村山市が本件各土地を借り受けるについて各所有者と締結していた貸借契約には、東村山市は本件各土地に係る契約期間内の固定資産税及び都市計画税を減免するものとする旨の条項が存在していたことが認められる。しかしながら、租税債権は法律、条例等の定めるところに基づいて当然に成立し、又は消滅するのであって、特段の事情のないかぎり課税主体と納税義務者との合意によりその内容を左右することはできないというべきところ、本件において右特段の事情については何らの主張も立証もないから、右契約条項の存在によって、被告が本件各土地の所有者らに対して本件固定資産税を賦課することが妨げられることにはならないというべきである。

そうすると、被告が本件固定資産税を賦課していないことは違法ではあるが、このことにより東村山市に本件固定資産税の額と同額の損害が発生したものということはできない。

したがって、原告らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

四よって、原告らの請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官鈴木康之 裁判官石原直樹 裁判官深山卓也)

別紙<省略>

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